アステカの呪文 ―16年越しの開幕戦―
16年前、ヨハネスブルグの空にブブゼラが鳴り響いた瞬間を覚えてるか。あの開幕戦の相手と、今度はアステカで再会する。
よう。いよいよだ。日本時間6月12日の朝4時、メキシコシティのエスタディオ・アステカで全部が始まる。W杯を3度開催する史上初の国・メキシコ。その幕開けの相手が南アフリカってのは、偶然じゃ済まされねえ巡り合わせだ。
2010年、南アフリカ大会の開幕戦。ヨハネスブルグでシャバララが先制弾をぶち込み、メキシコのラファ・マルケスが追いついた。1-1。あの試合から16年、今度は立場が入れ替わって、メキシコのホームで同じカードが組まれた。サッカーの神様ってのは、たまにこういう粋な脚本を書く。
中身を見ろ。メキシコは直近無敗。5月にオーストラリアとガーナを連破して、ポルトガル・ベルギー相手にも負けてねえ。対する南アフリカは直近ニカラグアと0-0、PKまで外して得点力はどん底だ。地力の差は明白。だがな、開幕戦ってのは魔物が棲む。開催国のプレッシャーは、勝って当たり前の側に重くのしかかるんだよ。
メキシコには『5試合目の呪い』——ベスト16の壁——っていう積年の宿題もある。その呪いを解く旅は、この一戦の入り方で決まる。覚えとけ。
ミランで磨いた決定力を持つ新世代のストライカー。開催国の重圧を撥ね返す一発を持ってるのは、こいつだ。
プレミアの点取り屋が、最前線を一人で背負う。低調なチームに風穴を開けるとしたら、こいつの一撃だろ。
国内組のベテラン司令塔。アステカの狂騒の中で、ボールを落ち着かせられる唯一の男だ。
開幕戦は固くなる。緑一色に染まったスタンドの圧の中で、メキシコが普段通りテクニカルに繋げるか、最初の15分を見ろ。浮足立ってたら、嫌な夜になるぞ。
南アは直近PKまで外す得点力不足だ。だが堅守は本物。0-0の時間が長引くほど、2010年の再現——一発の名ゴール——の匂いが濃くなる。ここを見ろ。
2010年は南アの先制をメキシコが追いついた。今度先制するのはどっちだ。先に点が動いた瞬間、この物語の章立てが決まる。
順当ならメキシコだ。だが俺は、南アが90分間しぶとく0を並べる画も捨ててねえ。メキシコが先制すれば祭り、できなきゃアステカが静まり返る。開幕戦ってのはそういう残酷な舞台だ。
「2010年の開幕戦も同じカードで1-1だったんだぜ」——これを言えるだけで、お前さんは観戦仲間の中で一段上に立てる。

